Ⅲ.月夜を歩く　
　　　　　男声合唱組曲』
　　　　　雪明りの路

　　伊藤　整　作詩
　　多田武彦　作曲
　　　さだ男声合唱団
　　　　　（さださんが１人で４パート）
　　
泣きやんだあとの様に
月が白い輪をもった夜更けて
私は　ひとり忍路の街を通りぬける。

切通しをのぼりきれば
海の見える　さびれた家並がある。
海は湾の内に死んで
灰色の背を見せ、家々は寝しずまっている。

そとに夜どほし立っている桐の木の花が
甘く鋭く匂っている。
私はいくつもいくつも
塩風で白くなった板戸の前をすぎて
わるいことをするやうに
下駄の音をしのばせてそこを通り抜けた。

あゝ　何のための　遠い夜道だつたらう。

いたどりの多い忍路から出る坂路で
誰も知るまいと
私は白い月を顔にあびて微笑んでみたのだ。

Ⅳ.白い障子
　　　さだ男声合唱団 目次へ

ティツィアーノの 　フローラ（白衣の女） 伊藤整は、フローラの絵の裏に、 この詩を書いた

伊藤整は、忍路に初恋の女性、チエさんが住んでいる家に
行ったのです。だけど、チエさんに会うこともなく、
ゲタの音を忍ばせて、チエさんの家を通り抜けたのです
なんのための遠い夜道だったろう
誰も知るまいと、私は白い月を、顔にあびて微笑んでみたのだ

少年ですね、こんな時代もあったねと、　歌ってみました。